Wonder Reserch アーカイブ2025

2025年度のテーマ「おうち」

私たちはさまざまな「おうち」で暮らしていますが、海にすむ生きものたちはどのようにくらしているのでしょうか。
生きものたちが作り出す「おうち」から、それぞれのくらしを見てみましょう。

1.おうち探し

身軽な賃貸派

●クマノミのなかま

クマノミのなかまは、触手に毒針をもったイソギンチャクをおうちにしてくらしています。クマノミは他の魚とちがって、体表にイソギンチャクを刺激する物質が少ないため、刺されません。他の生きものは近づくことができない、セキュリティ万全のおうちです。

●褐虫藻

褐虫藻は、サンゴのからだにすむ植物プランクトンです。褐虫藻はサンゴにくらすだけでなく、光合成によって作り出した栄養をサンゴに分け、お互いにたすけあってくらしています。しかし、急な水温の変化や水質悪化などのストレスを感じると、サンゴから出ていきます。

自分で建てた一軒家・戸建て派

●コツメカワウソ

コツメカワウソは、木の下や岩の隙間、動物の空けた穴などの中に、枯葉や草を敷き詰めたおうちに家族でくらしています。
当館ではおうちとして麻袋を使用しており、濡れた毛を拭いたり体を擦ったり、体をつつみ込んでリラックスする様子が見られます。

●ジェンツーペンギン

ジェンツーペンギンは、繁殖期になると、小石や植物などを積み上げておうちを作り、雄と雌が交代で協力して子育てをします。
当館では、小石や植物に代わって、人工芝を使用しています。作ったおうちが汚れないよう、お尻を外に向けて、糞をします。

●モンハナシャコ

モンハナシャコは、脚を使って砂を掘り、トンネル状のおうちを作ります。
おうちには出入口が2つあり、緊急脱出用としても捕食するときの待ち伏せ用にもなります。
小さな石やサンゴの破片を運んで巣穴を補強したり、産卵前や脱皮前は巣穴の入口をふさぐこともあります。

●ヤシャハゼ/ニシキテッポウエビ

ハゼとテッポウエビは同じおうちでくらします。テッポウエビはおうちを作り、ハゼはおうちのまわりの見張りをします。ハゼは体を震わせて、体に触れているテッポウエビの触覚に辺りの様子を知らせます。またテッポウエビはハゼの食べ残しや糞を食べ、お互いに助け合ってくらしています。

自分で建てたマンション派

●チンアナゴ

チンアナゴは、砂の中に穴を掘っておうちを作り、敵が近づいてくると潜って自分の身を守ります。全身がおうちの外にでることはほとんどなく、砂の下には30㎝ほどのからだが埋まっています。コロニーと呼ばれる集団を作り、マンションのようにみんなで集まって暮らしています。

自分では建てない派

●カンザシヤドカリ

カンザシヤドカリは、イバラカンザシというゴカイのなかまが作った穴をおうちにします。この穴は、サンゴに埋め込まれているため、他のヤドカリのようにおうちごと移動することはできません。
また、他のヤドカリは巻貝の形に合わせて、おなかが曲がっていますが、カンザシヤドカリはまっすぐです。

●ヤドカリ

ヤドカリはかたい貝殻をおうちにして、柔らかい腹部を守っています。成長しておうちが窮屈になったり、壊れたりした時には引っ越しをします。また貝殻にイソギンチャクを付けてタコなどの天敵から身を守る種類や決まった種類の貝を選んですむ、こだわり派もいます。

海全体がおうち

●クラゲのなかま

クラゲは、帰るおうちをもたずに広い海の中を漂ってくらしています。海で私たちが目にする以外にも汽水域や水深200mほどの深海で生活する種類もいます。おうちを作ったり、特定の場所に留まったりせず水流にのって浮遊生活をしているため、夏場には海水浴地の近くに流れてくることもあります。

●バンドウイルカ

バンドウイルカは、海の中を自由に移動してくらしています。温帯から熱帯にかけて広く分布し、主に沿岸で見られますが、水深の深い沖合にいることもあります。イルカやクジラの仲間のザトウクジラは、5,000km以上の広い範囲でくらしています。

2.おうちを作る生きもの

3つの水槽展示

●ソメンヤドカリ

ヤドカリのなかまは、柔らかい腹部を守るため巻貝の殻をおうちにしてくらしています。産まれたばかりのときは腹部がまっすぐですが、成長するにつれて、巻貝の向きに合わせた右にねじれます。中でもソメンヤドカリは、ベニヒモイソギンチャクを貝殻につけているのが特徴です。ヤドカリは、イソギンチャクのもつ刺胞毒で天敵のタコから身を守り、イソギンチャクは簡単に移動したりヤドカリの食べ残しを得たりすることができます。またヤドカリが貝殻を引っ越す時には、イソギンチャクも移動させます。ヤドカリはハサミ脚と歩脚でイソギンチャクに刺激を与えて接着部分を緩めて外し、引っ越し先の貝殻にイソギンチャクをつけ直します。

●モンハナシャコ

モンハナシャコは、サンゴ礁に生息するシャコのなかまで鮮やかな体色が特徴です。巣穴は、脚をつかって小石を運び出したり、腹肢をつかって砂をかき出したりして作ります。
モンハナシャコの必殺技は、「シャコパンチ」です。捕脚とよばれる脚は、一部分が丸く膨らんだボクシングのグローブのようになっており、二枚貝や巻貝、甲殻類をたたき割って食べます。また捕脚には、衝撃を吸収する層があり、自身が衝撃を受けることはありません。水槽の中でも殻つきの貝を与えると、パンチで貝殻を砕く姿が見られます。

●ハゼとテッポウエビ

種の異なる生物が互いに利益を得る関係を「相利共生」と呼びます。ハゼとテッポウエビの関係もその一つです。穴掘りが得意なエビは砂底に巣穴を掘って生活し、ハゼはその巣穴を隠れがや繁殖場所として利用します。一方ハゼは、巣穴の入口で外敵を警戒し、危険が近づくと尾を振って目が悪いエビに危険を知らせます。水槽内のハゼとエビをよく見ると、エビの触覚で常にハゼの鰭を触っているのがわかります。種類によっては、ハゼの糞をエビが食べ、エビが巣外で砂を掘ることでハゼがエサをさがしやすいようにしてあげているという研究結果もあります。また、ハナハゼという別のハゼが共生関係にあるハゼとエビの巣穴に居候することも知られています。

3.大人気マンション「サンゴ」

安心して棲める「おうち」

隙間の多い立体の構造物が出現するだけで、いろいろな生きものの「おうち」になり、大型の捕食者が入り込めない避難場所にもなります。特に、枝状に広がるサンゴには複雑な空間ができ、スズメダイなどの小さな魚の「おうち」になります。生きたサンゴだけでなく、死んでしまって骨格だけになったサンゴも「おうち」として利用されます。

孔をあけて「おうち」をつくる

サンゴをそのまま利用するだけでなく、骨格に孔をあけて「おうち」にする生きものもいます。穿孔性のカイメンのなかまであるクリオナは、酵素によりサンゴを科学的に溶解し削り取ってからだをねじ込みます。クリオナの穿孔により、大きなサンゴの骨格も内部からぼろぼろになってしまいます。
他にも、サンゴの隙間に棲むシャコガイは、外套膜から酵素を出して溶解し、二枚の殻を動かすことによって石灰岩を機械的に削り取ります。また、カンザシヤドカリのように、イバラカンザシなどのゴカイ類が棲んでいた穴を「おうち」にする生きものもいます。

細胞レベルで同居~褐虫藻~

褐虫藻は造礁サンゴのからだを「おうち」にしています。褐虫藻は光合成により、二酸化炭素と水から酵素やグリセリンなどの炭素化合物を作ります。作り出した炭素化合物のほとんどはサンゴに手渡すため、サンゴにとっては食物や酸素をもらえる、という利益があります。一方褐虫藻にとっては、刺胞がある安全な要塞であり、日当たり抜群で暖かい住居を提供してもらえる、という利点があり、この関係を「相利共生」とよびます。サンゴが褐虫藻をどのように取り込んでいるのか、という点については諸説ありますが、サンゴが持つ蛍光タンパク質によって褐虫藻がおびき寄せられる、という説もあります。

まかないつきの「おうち」

サンゴは、褐虫藻が作り出した光合成産物の90%を受け取り、その約半分を粘液などの有機物として対外に分泌しています。粘液には、サンゴ自身をきれいにしたり身を守ったりする役割がありますが、サンゴの粘液を主食として全面的に依存している生きものもいます。
中でもサンゴヤドリガニは枝の成長をゆっくりコントロールして変形させこぶをつくり、雌は一生その中でくらします。また、サンゴの粘液を主食とするサンゴガニはサンゴの天敵であるオニヒトデを自ら攻撃します。

脅かされる大人気物件

大人気のサンゴに「おうち」として住むのではなく、サンゴを食べる生きものもいます。
サンゴのポリプだけを食べるチョウチョウウオや、骨格ごとサンゴをかじるブダイです。
サンゴの育つスピードとバランスがとれていれば問題はありませんが、オニヒトデは、1日で自分のからだと同じ面積のサンゴ食べることができます。オニヒトデの幼生は私たちヒトが出す生活排水に含まれる栄養塩が大好物です。生活排水が海に流れ、オニヒトデが大量発生してしまうと、サンゴがどんどん食べられ、たくさんの生きものがくらすサンゴ礁が減少してしまいます。

4.水族館のおうち「水槽」

水族館の生きものにとって「おうち」である水槽は、生きものが快適にくらすためにさまざまな工夫をしています。
ここでは水族館の「おうち」の工夫を紹介します。

1.照明(光)

光は、生きものたちが起きたり眠ったりする生活のリズムを整えたり、卵を産んだりその卵がふ化したりするタイミングを決めたりする重要な要素です。サンゴや海草など、光エネルギーを利用して光合成をする生きものもいます。水族館では、「おうち」に光を注ぐため、照明器具を使用します。生物によって適した光の波長や強さが異なるため、使用する器具もさまざまです。お客さまにいきものが活動している姿をみていただくために、夜行性の生きものの水槽は、昼は照明を点けずに暗くし、夜に照明を点けて明るくすることによって、昼夜を逆転させることもあります。

2.インテリア

水槽という「おうち」の中で、生きものの生息環境や好みに合わせて、素材を選んだり、配置をする水槽のレイアウトは飼育スタッフの腕の見せどころです。生きものが気に入った場所を見つけられるよう、隠れ家になりそうな場所をつくって、1つの水槽内に異なる環境があるのが理想の「おうち」です。また、水槽の中で生きもの自身が巣をつくる場合もあります。

3.ろ過システム

水族館では水槽という「おうち」で生きものたちを飼育しています。生きものたちは、水槽の中でうんちやおしっこをしますが、当然トイレはありません。水の中の排泄物を浄化するために、多くの水槽には「ろ過システム」がついています。水槽の水は「ろ過システム」でろ過されて、水槽へ戻り循環しています。
「ろ過システム」では、物理的なろ過だけではなく、バクテリアによって、多くの生きものにとって有害なアンモニアを毒性の低い硝酸へ分解する生物ろ過もおこないます。なるべく多くのろ過細菌を定着させることが、飼育水をきれいに保つポイントです。

大きなおうち「ワンダーチューブ」のLife Support System

目の前にある大きなトンネル型水槽「ワンダーチューブ」を維持する仕組みは、下のイラストのようになっています。
ろ過システム以外にも、水温を調整したり、酸素を提供したり、生きものが生存するために必要な環境を人工的に作り出すシステムのことをLife Support Systemといいます。

ここにもおうち!「ろ材」

ろ過槽に入っている、リングろ材は多孔質といって、小さな孔がたくさん開いています。アンモニアを毒性の低い硝酸に分解してくれるバクテリアがたくさんすめるように、表面積を大きくする工夫がされています。

ウールマット
綿状や繊維状になったフィルターです。物理的に汚れをキャッチします。

セラミックリング
細かな孔が無数に開いており、そこにバクテリアが棲み着きます。

サンゴ礫
サンゴの骨格で、炭酸カルシウムが解けることでpHなどへの緩衝作用があります。

5.地球という「おうち」

「おうち」は、さまざまな生きものたちが支えあい、関わりあってできています。
わたしたちヒトの「おうち」はどうでしょうか?
わたしたちも他の生きものの恩恵を受け、生きていることに気がつくはずです。

そして、地球は私たち生きものみんなの「おうち」です。
地球にすむ生きものたちみんなが快適に「おうち」にくらし続けるにはどうしたらよいでしょうか。
たった一つの「おうち」でくらし続けるために、考え、行動することが地球環境を守る第一歩へとつながります。